メンバーインタビュー第2回は、高地寛(@-- )さん。広告映像からドキュメンタリー、アート映像まで、映像作家として幅広く活動をされている高地さんに、お仕事をはじめられた経緯や、目指していること、そして現在進められている自主制作プロジェクト『ALL IS YOUR LIFE』についてお話しを伺いました。

【プロフィール】
高地 寛(こうち ゆたか)
1980 年生まれ、兵庫県出身。 岡山の倉敷芸術科学大学で映像を学びながら、演劇に打ち込む。 その後、東京の劇団燐光群に役者として入団。 退団後、映像制作独楽の屋号で活動を開始。
ドキュメンタリーをベースにした職人映像、行政の移住促進映像、そのほかプロモーション映像やアートのイメージ映像などを幅広く制作を行っている。
現在「つくること・表現すること・時間をかけること」に関わる人たちを紹介する映像メディアサイト『ALL IS YOUR LIFE』を自主制作で運営している。


120%の集中力を向けられるものを求めて映像制作の世界へ


——高地さんは、もともと演劇をやられていたんですよね。

高地:はい。劇団に所属して、演じる側をやっていました。

——そこからどのような経緯で、今の広告映像のお仕事を始められたんでしょうか。

高地:役者はあまり向いてないなと思って劇団は辞めたんですが、辞めた後も体を動かすパフォーマンスにずっと興味がありました。ダンスに近いような身体表現をやってみたいと思っていたんです。それで、カンパニーデラシネラさんのワークショップに参加しました。8日間稽古をして、最後ショーイングするというプログラムで、1日8時間稽古するんですけど、30分も休憩がないんです。めちゃくちゃハードなんですけど、ただ、めちゃくちゃ楽しかったんですよね。常に120%を求められるお題ばかり投げられるので、集中力がいるし、時間の密度が濃い。
終わって帰ってきたら、バイトの時間に一切耐えられなくなっていて、同じだけの集中力を向けられる仕事をやりたいなと思ったんです。それで、映像は作ったことがあるから……と、映像の仕事を始めました。

——それ以前にも映像はつくられていたんですね。

高地:もともと大学で美術学科の映像コースにいたので、映画をつくるっていうこと自体は大学からやっていました。卒業した後も、自分でシナリオを書いて監督してカメラも回して、そのままの感覚で続けていたので、つくることをお金にできれば、と。

——今は広告映像のお仕事をたくさんされていると思うのですが、AOI Film Craft Lab.は、どのように活用されていますか。

高地:とにかく、第一線で活躍する人の話が参考になっていますね。元々広告の業界にいて下積みしていたわけでも、監督さんの下で働いていたわけでもなかったので、自分ひとりで仕事をするとき、基準を持っていなかったんですよ。一時期、制作会社でプロジェクトマネージャー職をさせていただいたことがあり、そこで大体の仕事の流れは理解したのですが、「どのレベルならOKを出していいかな?」とか、物差しがなかったんです。アオイラボでは、第一線で活躍してる人の企画書を見せてもらえる講義もあるし、お客さんに実際はどう喋っているかというような話も聞けるので、自分の基準が明確になりますね。
あとは、講師の方から話を聞きながら、改めて自分の進む方向性を確認しています。自分の考えと同じような話が聞けたときは、自分の進んでいる方向が間違いじゃないんだな、と思えますね。

ドキュメンタリー撮影の楽しさ


——幅広い作品の中でも、高地さんは特にドキュメンタリータッチのものを多く撮られているよう感じました。元々、ドキュメンタリーを中心に撮られていたんですか?

高地:元々はシナリオのある映画をつくっていましたし、最初のころは、すべての仕事できっちり絵コンテを書いていました。そちらの方が多くて、ドキュメンタリーは撮ったことがなかったんですよ。
ドキュメンタリーを撮り始めたきっかけはニッポン手仕事図鑑さんに出会ったことですね。
面白そうだったので、「一緒にやってみたいです」とメールを送ったんです。そうしたら、一緒にやりましょうということになって。彼らがドキュメンタリースタイルだったんですよ。すると、一切コンテも書かないし、事前にインタビューの内容もほとんど送らない。その場で対応していくというのをやってみて、案外面白いなと思いました。

​​「ニッポン手仕事図鑑 × 片山木工所」

「平田運輸 株式会社【立石ドライバーの1日】」
——高地さんのドキュメンタリーでは、取材される方がとても自然体で話している印象を受けます。インタビューするときに心がけていらっしゃることはありますか。

高地:いちばん大切にしているのは、自分も楽しく喋ることです。自分も喋ってしまうので、僕は結構インタビュー時間が長いんですよ。でも、そうすると相手がゆるんでくれるんです。カメラで「はい撮ります。どうぞ」って言われると、かたくなってしまう。なので会話しながら聞いていきます。
あとは、美大で学んだ発想がすごく役に立っています。たとえば、水彩画でリンゴを描くと、赤色で塗りたくなるじゃないですか。でも、赤ではほとんど塗らないんですよ。塗るといえば塗りますけど、赤色の中の影には緑とか紫色っぽいものがいっぱい見えたりして。要はそのリンゴ=赤っていうのは、ただの概念なんです。社会生活を送る上では、概念を使って暮らしますよね。でも、言葉って概念で、ものすごく曖昧なものでしかないので、青色好きですって言われても、どんな青が好きか分からないじゃないですか。だから、たとえばインタビューで職人さんが「苦労」という言葉を使ったとしたら、それがどんな苦労なのか質問する。そうすると、すごく話が進むんですよ。

「わからないこと」は面白い


——仕事でもライフワークでも、高地さんとして、今後こういうものが撮りたいな、と思っているものはありますか。

高地:制作する上でテーマとしていることは、『ALL IS YOUR LIFE』のテーマでもある「つくること・表現すること・時間をかけること」です。ぶっちゃけ言うと、それって結局、人間に興味があるというか、人間の持っている可能性がみたいんです。
そういう意味で言うと、僕は「わからない」ってことが大事なんだと思っています。「わからない」って実は、「面白い」っていうことを内包してると思うんです。
ただ、現代の日本だと、教育現場にしても正解を出さなくちゃいけないし、わかりやすい結果を求められる。コンテンツも、わかりやすいものしかなかなかヒットしない。もちろんエンターテイメントは大事だし、「わかりやすい」というのは、めちゃくちゃいいことなんですけど、それしかない状態になってきているように思うんです。わかりやすいものにしかお金が回っていない。そうなると文化という意味では圧倒的に下がってしまうような気がしています。
なので、まあ、そこらへんの、わからなさ、わからないことの面白さみたいなものを撮っていきたいです。色んな人と接すると、自分の知らなかったものがポコポコ出てくる。まだまだ知らんことばっかりだなとか、わかんないことばっかりだなって、そう気づくことも面白いと思うんです。

——広告映像の分野では、わかりやすさが求められることも多いと思います。わかりやすさと、わからないことの面白さ、どうやって折り合いをつけておられるんでしょうか。

高地:それが、いちばんの課題でもありますね。
広告映像は作品じゃなくて、コミュニケーションツールだと考えています。受け取る側もスピード感を求めるので、わかりやすさが必要になる。でも、わかりやすさってイコール、結局、今まで見たものばかりになるパターンが多いと思うんです。それは、しょうがないことですよね。安心材料でもありますし。
でも、人に印象を残すのが広告の役割だと思うと、わかりやすさと、わからないものの中間を探って、つなげていくような仕事ができたらと思っています。
そこはきっと、お客さんも求めているところであると思うので。

つくること・表現すること・時間をかけること


——自主プロジェクト『ALL IS YOUR LIFE』は、どういう経緯で始められたんですか。

高地:僕は元々アート上がりなので、役者、ダンサー、音楽家とか、いろいろなお付き合いがあったんですけど、みんな今の日本でお金を稼いで生きていくのが大変なんですよね。僕は、彼ら自身が夢中になるその魅力っていうのが、あんまり一般に伝わってないなっていう気が、ずっとしていたんです。ダンサーさんが踊ってるときのそもそもの楽しさや価値観みたいなものが、あまり伝わってないなと思っていて。もっと、伝わるものがあるんじゃないかな?    と思ったのが『ALL IS YOUR LIFE』を始めたきっかけです。

——ダンサーさん、静物画家さん、樹木医さんと、さまざまな分野の方を取材されていますが、取材依頼からすべてご自分でやられているんですか。

「AIYL #1 じゅんじゅんSCIENCE scene 01 高橋淳」

「AIYL #2 樹木医後藤瑞穂 しだれ梅の剪定」

高地:元々知り合いだった方もいらっしゃるんですけど、興味を持ったら、自分で電話して取材を依頼しています。たとえば樹木医の方への取材は、岩手の「てくり」というミニコミ誌で樹木医という職種そのものに興味をもったのがきっかけです。その後、東京、神奈川と取材させて貰えそうな方をネットと電話で探して、行き着きました。

——常にアンテナをはっていらっしゃるんですね。このプロジェクトを通して実現したいこと、目指していることがあれば教えて下さい。

高地:一番は続けていって、もっともっと大きくして、いずれはこのフレームだけがしっかりと残って、他の人たちが働けるような大きさになったらと思います。僕がいなくなっても、誰かが継いで、つくり続けてくれるようになったら、面白そうだなと。オリジナルコンテンツとして、きちんとお金が回るようにしていきたいですね。あとは、今も英語字幕を付けているんですが、海外の人にも観てもらえるコンテンツとして発展させていきたいです。テーマ自体は世界に共通するものだと思うので、いずれ海外の人なども取材もしてみたいですね。

お仕事から自分のプロジェクトまで、太い芯をもって制作を続けてらっしゃる高地さん。プロジェクトの次の展開を、いち視聴者として楽しみにしています。
『映像制作独楽』http://eizouseisakukoma.com/
『ALL IS YOUR LIFE』https://www.allisyourlife.com/

また高地さんは、オリジナルコンテンツの制作過程もSNSで公開されています。
コンテンツ制作の裏側が気になる人も、これから自主制作を始めてみたい方も、ぜひチェックしてください。
『ALL IS YOUR LIFE step by step』
【Insta】
https://www.instagram.com/p/Ce6GllsL-7Q/
【FaceBook】
https://www.facebook.com/All-is-your-life-step-by-step-103629335730458/?ref=page_internal

★次回は8月16日の更新を予定しています。

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