メンバーインタビュー第7回は、映画やドラマの衣装製作の現場で第一線を走り続ける@DEKAMERA3 (若林ケイジ)さん。衣装製作をはじめとするファッション業界を主戦場としつつも、映像の知識や技術をお持ちのDEKAさんは、最近ではAOI Film Craft Lab.のセミナーで講師も担当されています。DEKAさんがなぜアオイラボに加入されたのか、そして、どんなことに挑戦されているのか、お話をうかがいました。

DEKA(若林ケイジ)
1964年長野県生まれ。服造りの専門家。文化服装学院卒業後、株式会社ヨウジヤマモトにてニット、カットソーの企画チーフを担当。自身のブランド「national standard」を設立。自身ブランドをユニクロに売却後、UNIQLO企画6年担当。伊勢丹新宿店制服デザイン、亀田総合病院制服など担当。伊勢丹PBプロデュースの後、衣装デザイナー転身。映画、CM、ジャニーズや坂グループなどの衣装製作、デザインを担当。東京オリンピックの開会式・閉会式の衣装デザイン担当。不動産会社社長も兼任している。


フランスで受けたカルチャーショック


——DEKAさんが映像制作を始めたきっかけを教えて下さい。

DEKA:もともと映画やドラマ、ステージのために衣装製作をしていたので、大規模な撮影現場にはいつも出入りしていたんです。いつのまにか、機材などの知識も増えました。
でも本格的に始めたきっかけはコロナです。コロナになってからオンラインの打ち合わせが増えて、衣装案も動画で提案することが増えてきたんですよ。
また、衣装の確認も動画のほうが正確です。たとえばジャニーズのグループに衣装をつくるときは、現場スタイリストさんと各メンバーさんのリハーサルの様子を撮影します。360°衣装の見え方を確認して、ステージの本番までにシルエットや飾り付けを整えるんです。

——お仕事の一環として、動画が必要になったんですね。

DEKA:そうですね。そこから動画が楽しくなってしまって、どんどん勉強しています。映像の学校にも行ってみたんですが、自分が一番最新機材の知識があったし、なんだったらPremireProの編集も生徒の中で一番上手になってしまった(笑)。
オンラインの打ち合わせが増えたこともあって、実は去年11月、フランスで仕事をしてみようと思って、社員を全員つれて、自分の会社丸ごとフランスに引っ越したんですよ。打ち合わせもZOOMだし、パターンはリモートでつくれるので……。しばらくしてオミクロン株が広まって、結局帰国せざるを得ない状態になってしまったんですが、今はどこでも仕事ができるって実感しましたね。

——丸ごと引っ越しとはすごいですね……!    フランスのどちらですか。

DEKA:パリです。ファッションの仕事って、そこに関連する写真もムービーも、最新の機材と技術、達人が集まる場所なので、パリに仕事のベースをつくることが長年の願望でした。

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フランスでの生活

DEKA:ところがパリ市内は、いまだに3Gエリアが多く、専用の撮影機材を売っている家電店もなくて……戸惑っていたのですが「果たして? 達人はどこにいるかな?」と思って、パリのメゾン系ブランドで働く友達がいたので、現場をみせてもらったんです。
そうしたらなんと、アトリエ内のスタジオで、かなり最新のスペックのカメラにリグ(カメラ用のアタッチメント)をつけて、カメラを倒してセットして、縦型動画の撮影をしていたんです。アジア向け動画はもう縦型中心だから、縦型動画をProRes RAWで撮っているんです。街並みはいまだに3Gでも、メゾン内は最新鋭!

——アトリエ自体が、最新のカメラを常備しているんですね。日本とは状況が違うんでしょうか。

DEKA:日本にあるアパレルも、自社のミニスタジオで撮影していますし、専門のスタッフもいますけど、だいたいが通販のための写真用です。そうじゃなくて、専用のスタジオがあって、写真も動画も専門のカメラマンがいて、その人たちがProRes RAWで縦型動画を撮影し、アジア向けに発信しているんですよ。それぞれのアトリエが「映像制作の機材と技術を持っていて当たり前」という状態なんです。
正直、パリに到着してすぐは「パリってWi-Fiも遅いし、もしかしたら自分の映像の知識でも通用するかなぁ……」なんて思っていたんですよ。ですがメゾンアパレルのアトリエをのぞいたら、高度な映像技術や、世界に発信する姿勢が当たり前に浸透している。当たり前のことにカルチャーショックで、改めて自分の実力のなさを感じて、帰る頃にはもう気持ちが重くなっていましたね。


発信する力がアパレル業界を底上げする


DEKA:今の日本は、いろんなところで、衣装に予算をかけてもらえないんですよ。アイドルやドラマなどでも、衣装ってすごく見られているから重要で、エンターテイメントとしてのクオリティをあげるための肝なんです。でも、どんどん予算が削られていく。そういう状態を打開するために、改めて衣装の良さを映像で発信して、伝えることができるのではないか、と考えています。

——わたしも映画を観るとき衣装に注目することが多いです!    衣装、重要ですよね。

DEKA:ええ、良い映像は、やはり衣装が良いんですよ。ちなみに僕のつくった衣装は、着用後に倉庫にしまい込んでしまうことが多いんです。そもそも仕事もすべて人づてでいただいているので、何か営業ってしたことがない。でも写真や動画で発表できれば、向こうからアクセスしてもらえますよね。世界に発信できるし、衣装の価値も伝えられる。衣装業界には、写真や動画を撮るっていうことにすごく高額なお金がかかるって思い込んでいる人がまだまだ多いです。「今は撮影機材も編集ソフトも安価になって、自分で映像制作できるしコスパ良いよ!」っていうことも、伝えていきたいですね。

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DEKAさんが製作された服
(担当のタレントさん、アーティストさんから、デザインイメージを多数いただいているそうです)

動画制作技術は、教育格差を埋めるための武器になる


DEKA:AOI Film Craft Lab.には若い人がたくさんいるから、機材をかしたり、教えたり。最近はそこに楽しみを見つけていますね。若くて勢いのある子といると楽しくて仕方なくて、僕よりずっと優れているなって感じるんですよ。かなわないなって思うのは「空気を読まないところ」ですね。

——空気を読めない、ではなくて、敢えて「読まない」ということですね。具体的にはどんなところですか。

DEKA:AOIさんのラボは、写真の学校みたいなカルチャースクールと違い、なぁなぁにしてしまいそうなところを、大目にみないんです。気遣いをしないで、真剣にやりあっている。
僕は若い人に機材を貸して一緒に撮影をしたしますが、たとえば街に撮影にでて、絶対に横軸のパンだけで撮影してみようって決めても、いきなりチルトでやってる子がいたりして……(笑)。でも、なんかいいんですよ、その空気を読まない感じが、いいなと思うんです。僕より優れてるところがいっぱいあるんですよ。

——知識を共有したいと思ったきっかけはありますか。

DEKA:教育格差を埋める、っていうのが僕の裏テーマです。
今の日本でいい大学に行こうと思ったら、学習塾が必要になる。貧困家庭の子はとてもじゃないけど通えない。自己学習で大学に入ろうと思っても、難関を突破するのは難しい。さらに地方にいたら、受験するだけで大変だし、通うにも独り暮らしが必要になる。努力して大学に入れても、中途半端なところに入ってしまうと、そこから先、やりたいことを探すのも、出会うのも大変です。
たとえば、AOI Pro.に入りたくてクリエイティブを始める人っているんですよ。でも、AOI Pro.みたいなトップの制作会社だと、入社してくる人の学歴も高い。でも、もしスタート地点で動画の知識と技術があって、カメラの取り回しが抜群だったら、同じ場所で戦えるかもしれない。動画制作力があれば、道が開けるかもしれない。
日本人って英語に対してコンプレックスがありますけど、そのあたりはテクノロジーの進化で数年以内に解決すると思うんです。東京オリンピックの衣装製作時、海外のスタッフとミーティングしましたが、色々な国の言葉がリアルタイムで自動通訳され、不便はありませんでした。今20歳ぐらいの子たちが30歳ぐらいになったとき、映像制作のノウハウは外国語より大切なコミュニティスキルになるんじゃないかと思うんですよ。

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オリンピックの衣装を製作。

お金を回すのではなく、つくる力を伸ばす


——これからの展望を教えて下さい。

DEKA:お金を回すことで、お金を稼いでいくことはできる。いわゆる投資などのこと。それはそれで羨ましいけれど、お金を回すだけでは製造産業には何も生まれない。国としても新しい産業をつくる力が衰えてしまう。やっぱり、やらなきゃいけないことは、「何かを製造する」ってことです。国力を上げて物を製造していかないと、未来はない。必要なのは、お金を回すことだけではない。何かを製造することを増やすっていう考え方が大切だと思っています。パワーがあって、無茶苦茶なこともする若者たちに、そうやって生きる方法や、つくることのノウハウを伝えていきたいですね。製造業にも発信するスキルも必要!

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——実際に何かを生み出していくこと、大切ですね。

DEKA:ぼくは不動産の仕事もしているんですが、実はここ数年、日本で不動産詐欺や投資詐欺がものすごく増えているそうなんですよ。個人的には「そういう問題を解決する映像をつくりたい」とも思っているんです。日本のテレビではなかなか取り上げられることのない社会問題の解決にも、映像はきっと貢献できる。でも、ただ自分がつくるんじゃなくて、若い子も含めて一緒につくっていきたいし、つくりながら動画と社会問題を覚えていってほしいなと思っています。
衣装業界もそうですが、自分だけではなくて業界そのもの自体の「つくる力」と「発信する力」を底上げしたいんです。だって、そもそも一番性能の良いミシンは日本製で、カメラもSONYやキヤノン、日本のメーカーががんばっているんです。なのに日本でエンターテイメントをつくる力が落ちていくなんて、悲しいですよ! 「つくる力」をのばすために、動画はいろんな方向から貢献できる。衣装業界の最新技術と、映像業界の最新技術を結ぶことで、クオリティの高いものが生まれると思います。
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フランスでの現状や、衣装製作の現場で動画がどのように使われているかなど、興味深いお話をたくさんうかがうことができ、ボリュームたっぷりのインタビューになりました。映像制作自体が、英会話やプログラミングのようなスキルとして扱われるのは、そう遠い未来の話ではないのかもしれません。

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